胎児の首の後ろのむくみ（NT）について
首のうしろのむくみ（NT）は、すべての赤ちゃんにあります。
NT（Nuchal translucency）とは、胎児の首のうしろにある水たまりの部分を指します。 染色体異常の他に、心臓病や感染症などでも、首のうしろが厚くなることがあります。 染色体異常は、ダウン症候群や13トリソミー、18トリソミーなどがあります。感染症には、リンゴ病など、胎盤を通して赤ちゃんに影響が出るものがあります。
このむくみは、妊娠11〜13週までの時期にみることに意味があります。この時期をすぎると、むくみ自体は見ることができますが、適切な評価はできなくなります。
また、首のうしろのむくみは、妊婦健診では評価しません。
そのため、むくみについて何も言われていない＝むくみが厚くない、というわけではありません
当院を受診される妊婦さんから、妊婦健診でのエコー写真や動画で「むくみはありますか？」と聞かれることがあります。写真や動画をみせていただくと、ほとんどの場合でむくみを評価するのに適切な画像・動画ではありません。
むくみが気になる方は、上記の時期に、むくみを計測できる医療者に、みてもらいましょう。
首の後ろのむくみが厚いと指摘されたら…
５つの確認ポイント
NTが厚いと言われたら、これらのポイントを確認するようにしましょう。
- 本当に厚いのか
- どの程度厚いか
- 厚い原因はなにか
- 評価する週数は適切か
- 他にも気になる点がないか
それぞれ詳しく説明します。
1． 本当に厚いのか
NTは、胎児の首の皮下の厚みです。これを測る際に、胎児を包む羊膜と胎児の首との間を測ってしまってNT肥厚と言われることがあります。また、脳の正常構造にも液体貯留のように見える部分があり、そこを計測されてNT肥厚と言われていることもあります。
なお、NT計測の技能証明は、FMFが発行しており、NTスペシャリストのリストはこちらから確認できます。
2．どの程度厚いか
NTが厚いことをNT肥厚といいます。胎児の大きさによってNT肥厚の正常範囲は異なるため、何ミリから厚い、とはっきりとは言えません。また、NTが厚いときでも、「ちょっと厚い」のか「すごく厚い」のかで、胎児に異常を認める可能性は大きく変わります。当院では必ず、胎児の大きさとNT値の分布データに照らし合わせてNT肥厚の程度を評価するため、それぞれの胎児の大きさに応じた「厚さ具合」を元にダウン症候群や心臓病などの可能性評価を行っています。
NTの値は0.1mm単位での評価が必要です。一方、NTを正確に計測するためには、胎児が完全な真上を向いている必要があります。妊婦健診の短い時間で完全な真上を向いている状態であることは稀です。胎児クリニックでは、時間をかけて胎児が真上を向くまで待って、NTを計測します。
3．厚い原因はなにか
NTが実際に厚かった場合、その原因となるような疾患や症候群がないかを確認します。
NT肥厚というとダウン症候群が有名ですが、関連する症候群は100以上あり、単に羊水検査で染色体を調べるだけでは不十分な場合が多々あります。
4．評価する週数は適切か
妊娠10週頃のNT肥厚は、正常の成長発達過程で見られるものです。もちろん、なんらかの原因があって肥厚していることもありますが、11週以降にNT肥厚がある場合とは、検査時期や検査方法など考えることが変わってきます。
5．他にも気になる点がないか
NT肥厚の原因を考える上で、他に所見がないかを確認します。
例えば、ダウン症候群と関連する所見には「鼻骨低形成」「三尖弁逆流」「静脈管逆流」「膀胱拡大」「臍帯ヘルニア」「単一臍帯動脈」などがあります。NT肥厚の他にもこれらの所見があれば、トリソミーがある確信度は上がります。逆に、NT肥厚以外の所見がなにもなければ、トリソミーの可能性はかなり下がります。胎児ドックでは、これらの超音波マーカーを見るだけでなく、各臓器の形態評価を行うため、「心臓病が原因でNT肥厚があり、染色体異常はないだろう」などと考えることもできます。
NT肥厚の精査のために必要な４条件
上記5つのポイントを確認するためには、以下の4つが必要です。
- 良い診断装置（高周波数のエコー装置）
- 十分な診療時間（30〜60分程）
- 胎児カルテシステム
- 胎児診療分野の技術と知識（一般産婦人科とは異なる専門性です）
一般の妊婦健診でこれらを評価することは困難なため、妊婦健診を行う産婦人科とは別に、胎児診療を行う「胎児クリニック」があります。
まとめ
NTは、それだけで何か決定的なことを言えるものではありません。しかし、NT肥厚がきっかけで胎児の病気や症候群に気づくことは多くあります。
妊婦健診でNTを見てもらっていない、NTが厚いと言われた、など、NTに関して不安なことがあればお気軽にご相談ください。
