微小欠失症候群

微小欠失症候群とは

染色体の大きさは、核酸の長さであるゲノムサイズをb(ベース)という単位であらわします。比較的大きな構造異常の場合、顕微鏡で確認でき、その大きさの目安は5Mb(メガベース)程度と考えられています。それより小さい部分が無くなっているものを微小欠失症候群と言います。
どの染色体でどの程度が欠失しているかは、染色体の番号に加えて、染色体がもつ短腕(p)と長腕(q)のどちらで起こっているか、さらに詳細な場所を数字で示しています。
たとえば構造異常のなかでも多くみられるディジョージ症候群は22番染色体の長腕(q)の11.2の位置が欠失しているため22q11.2欠失症候群という名前がついています。その他の主な微小欠失症候群には、1p36欠失症候群、ウルフ・ヒルシュホーン症候群(4p16.3)、5p-症候群(5p)、プラダー・ウィリー症候群(15q11-q13)、アンジェルマン症候群(15q11.2-q13)などがあります。
染色体の小さな領域の変化といっても、症状がかならずしも軽いというわけではありません。もちろん症候群の種類や、同じ症候群のなかでも症状は異なりますが、微小欠失症候群の多くで心疾患などの形態異常や、てんかんといった神経疾患、精神発達遅滞など複数の合併症が出現します。
微小欠失症候群は、一般的な染色体の調べ方であるG-band検査ではわからず、さらに詳細なマイクロアレイ検査またはFISH検査等で調べることができます。

ディジョージ症候群(22q11.2欠失症候群)

22q11.2欠失症候群は、22番染色体の長腕(q)11.2領域に欠失が生じることで引き起こされる染色体微小欠失症候群です。

頻度は1000人に1人程度とされており、染色体が原因で起こる症候群の中では、ダウン症候群に次いで多いです。身体的な特徴としては、心疾患、口唇口蓋裂、低い免疫力、消化器系の問題などがあります。発達的な特徴としては、学習障害、言語障害、精神疾患、自閉症スペクトラム障害などがあります。
22q11.2欠失症候群は、遺伝によって起こることもありますが、家族歴がなく起こることもあります。欠失ではなく重複で起こる22q11.2重複症候群もあり、症状としては類似しています。

治療には、個々の症状に応じた医療ケアが必要です。心疾患や口唇口蓋裂などは手術を行います。学習障害や言語障害などの発達的な特徴については、早期のケアで症状がかなり軽減すると期待されています。出生直後には、血中カルシウム濃度が下がってしまうこともあり、しばらく新生児集中治療室(NICU)での観察や治療が必要となる場合があります。

出生前には、NT肥厚、ファロー四徴症や大動脈離断、右鎖骨下動脈起始異常、口唇口蓋裂、胸腺低形成などがきっかけで診断されることがあります。確定診断のためには、絨毛検査や羊水検査を行いますが、通常の染色体分析ではわからないため、「マイクロアレイ解析」や22q11.2欠失症候群をターゲットにした「PCR検査」「FISH検査」のいずれかを行います。最近ではNIPTで陽性となり心配される方もいますが、まだ多くが偽陽性のため、陽性となった場合には22q11.2欠失症候群に特徴的なエコー所見がないかを確認したり、場合によっては絨毛/羊水検査を検討したりします。

最近では、22q11.2欠失症候群に対する早期の診断と治療の重要性が認識されており、関連する医療専門家や家族支援団体が複数存在します。

参考

1p36欠失症候群

1p36欠失症候群は、1番染色体の短腕(p)36領域に欠失が生じることで引き起こされる症候群です。頻度は10000人に1人程度とされます。

身体的な特徴としては、低身長、筋力低下、視力障害、聴力障害、心疾患、骨や歯の形態異常、消化器系の問題などがあります。発達的な特徴としては、学習障害、言語障害、自閉症スペクトラム障害などがあります。根本的な治療法はないが、発達の遅れや筋緊張低下に対しては、乳幼児期早期からの療育により症状軽減の可能性があると期待されています。けいれん発作、てんかんについては、薬物療法よって寛解が得られる可能性があり、発達予後の改善にも有効とされています。

1p36欠失症候群は、遺伝的な原因により引き起こされることもあるため、家族に認める場合や胎児に認めた場合などには、遺伝カウンセリングが必要です。

確定診断のためには、絨毛検査や羊水検査を行いますが、通常の染色体分析ではわからないため、「マイクロアレイ解析」や1p36欠失症候群をターゲットにした「FISH検査」のいずれかを行います。最近ではNIPTで陽性となり心配される方もいますが、まだ多くが偽陽性のため、陽性となった場合には、形態異常や発育の問題がないかをエコーで確認しつつ、羊水検査を検討します。

1p36欠失症候群に対する早期の診断と治療の重要性が認識されており、関連する医療専門家や家族支援団体が存在します。また、国際的な研究コンソーシアムも存在し、病気の理解を深めるための研究が進んでいます。

互助的な活動をする家族会などのサイトには、当事者の動画も載っており、症候群のある方々の生活をイメージする上で参考になります。

参考

ウルフ・ヒルシュホーン症候群(4p16.3)

ウルフ・ヒルシュホーン症候群は、4番染色体の短腕の一部(4p16.3)の欠失によって起こる症候群です。この症候群は、特定の身体的特徴、知的障害、および神経系の症状を引き起こすことで特徴づけられます。

身体的特徴として、小頭症、低身長、斜視、口唇口蓋裂、下顎の後退、肘・手首・指の形態異常、および指の短縮、心疾患、尿路奇形などがあります。知的障害の程度は軽度から中程度まで幅が広く、てんかん・筋緊張障がいなどの神経学的症状も認めます。痙攣は生後1年以内に半数以上の患者で見られます。

この症候群のうち約75%は突然変異による欠失によるもので、その他は、4番染色体の環状化や、親の均衡型転座に由来する不均衡型転座などによって引き起こされます。欠失する領域によって症状が変わると言われています。約半数は、突然変異による欠失ですが、不均衡型転座によって起こることもあり、その場合は両親の染色体の均衡型転座が原因で起こっていることがあります。

出生50000人あたり1人程度と推定されており、女性に多い傾向があります。欠失領域が小さく症状が軽いなどで診断されていない方もいると考えられており、実際にはもう少し頻度が多い可能性があります。

治療には、症状に合わせた支援が必要です。身体的な問題には、手術や理学療法が役立ちます。知的障害や神経系の問題には、特別な教育プログラムや薬物療法が必要になる場合があります。また、家族支援グループや心理的支援が有効です。

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5p−症候群(5p)

5p−症候群は、5番染色体短腕の部分欠失によって起こる症候群です。出生15000〜50000人あたり1人程度と推定されます。新生児期から乳児期にかけて、猫のような甲高い啼泣を認めることが多いため、「猫鳴き症候群」や「クリ・デュ・チャット症候群(Cri du Chat syndrome)」とも呼ばれます。’Cri du Chat’ はフランス語で「猫の鳴き声」という意味です。

身体的特徴として、心疾患、停留精巣や尿道下裂、腎臓の形態異常などを認めます。

この症候群のうち約85%は両親には染色体微小欠失を認めず、突然変異による欠失が原因と考えられます。12%て一度は、不均衡転座によるもので、その場合両親に転座がある場合があります。

妊娠中にわかりうる経過としては、胎児発育不全、心疾患、眼間開離、耳介低位などがあります。確定診断のためには、絨毛検査や羊水検査を行いますが、通常の染色体分析ではわからないため、「マイクロアレイ解析」や5p-症候群をターゲットにした「FISH検査」のいずれかを行います。最近ではNIPTで陽性となり心配される方もいますが、まだ多くが偽陽性のため、陽性となった場合には、形態異常や発育の問題がないかをエコーで確認しつつ、羊水検査を検討します。

治療には、症状に合わせた支援が必要です。新生児期には、呼吸症状や哺乳障害の治療、成長の管理が重要となり、身体的な問題には、手術や理学療法が役立ちます。知的障害や神経系の問題には、特別な教育プログラムや薬物療法が必要になる場合があります。小児期には歯科・眼科検診、療育などを継続して行います。ライフステージに合わせた医療・社会的支援が必要となります。最新でリアルな情報を集めたり交換する際には、家族支援グループなども参考にすると良いでしょう。

参考

プラダー・ウィリー症候群(15q11-q13)

プラダー・ウィリー症候群は、15番染色体の長腕(q11-q13領域)にわずかな欠失などが生じることで引き起こされる症候群です。頻度は10000人に1人程度とされます。成長に伴い様々な症状がでるため、ライフステージに応じてのケアが必要です。

原因

15番染色体の一部(q11-q13領域)の欠失などで起こります。この領域は、遺伝子発現が親由来により決定される遺伝現象(ゲノムインプリンティング)が起こる領域です。父親由来のq11-q13領域が欠失していると起こるため、単純に欠失している場合以外にも、2本の染色体の両方が母親由来の場合(片親性ダイソミー(Uniparental disomy:UPD))や、q11-q13領域のみが部分的に母親由来の場合(ID)にも起こります。UPDは、染色体が3本あるトリソミーの状態から、1本が脱落して起こるのが最も一般的です。トリソミーは、減数分裂での不分離によって起こるため、母体年齢に依存して発生率は上がります。

プラダー・ウィリー症候群の遺伝学的な原因は、以下のように分類されます。

  • 部分欠失のパターンをとるものが約70%
  • 染色体全域が2本とも母親由来のパターンが約25%
  • q11-q13領域のみが部分的に母親由来のパターンが約5%
  • その他にも父親由来のq11-q13領域に切断点を持つ転座型が0.1%

最近ではNIPTで陽性となり心配される方もいますが、まだ多くが偽陽性のため、陽性となった場合には、形態異常や発育の問題がないかをエコーで確認しつつ、遺伝学的確定検査を検討します。確定診断のためには、絨毛検査や羊水検査を行いますが、通常の染色体分析ではわからないため、「SNPマイクロアレイ解析」や「DNAメチル化テスト」を行います。欠失を調べるために「FISH」を行うこともありますが、FISH法では欠失の大きさはわからないため、複数のプローブでFISHを行うなどの工夫が必要です。

また、NIPTで15番トリソミーが陽性とでて、その後羊水検査で正常核型だった場合には、15番染色体の片親性ダイソミーが起きている可能性があるため、SNPマイクロアレイ検査でプラダー・ウィリー症候群についても調べる意義が高まります。

症状

新生児期には、筋緊張低下が特徴的で、軽い呼吸障害を認めることもあります。哺乳不良によりチューブでの栄養補給が必要なこともあります。これらの筋緊張低下は、生後数ヶ月で改善することが多く、永続的な経管栄養は通常不要です。筋緊張が弱い分、運動発達は遅れがちですが、筋緊張が改善していくと運動発達も向上していきます。軽度〜中等度の知的障害傾向があります。継続的な心理社会的支援が重要です。

家族会が存在し、ピアサポートなども行われています。

アンジェルマン症候群(15q11.2-q13)

アンジェルマン症候群は、15番染色体の長腕(q11-q13領域)にわずかな欠失などが生じることで引き起こされる症候群です。プラダー・ウィリー症候群が発症するときの欠失領域と同じ領域ですが、プラダー・ウィリー症候群では父親由来の染色体が欠失しているのに対し、アンジェルマン症候群では母親由来の染色体が欠失することで生じます。

原因遺伝子は同定されており、UBE3Aです。その他にも神経症状の重症化要因と考えられている遺伝子として、GABRB3, GABRA5, GABRG3も同定されています。

頻度は15000人に1人程度とされます。

原因

15番染色体の一部(q11-q13領域)の欠失などで起こります。この領域は、遺伝子発現が親由来により決定される遺伝現象(ゲノムインプリンティング)が起こる領域です。母親由来のq11-q13領域が欠失していると起こるため、単に欠失している場合に限らず、2本の染色体の両方が父親由来の場合(片親性ダイソミー(Uniparental disomy:UPD))や、q11-q13領域のみが部分的に父親由来の場合(ID)にも起こります。UPDは、染色体が3本あるトリソミーの状態から、1本が脱落して起こるのが最も一般的です。トリソミーは、減数分裂での不分離によって起こるため、母体年齢に依存して発生率は上がります。

アンジェルマン症候群の遺伝学的な原因は、以下のように分類されます。

  • 部分欠失のパターンをとるものが70%
  • 染色体全域が2本とも父親由来のパターンが5%
  • q11-q13領域のみが部分的に父親由来のパターンが5%
  • その他にも父親由来のq11-q13領域に切断点を持つ転座型や原因不明が20%

多くは突然変異によるもので、遺伝によるものは多くありません。

最近ではNIPTで陽性となり心配される方もいますが、まだ多くが偽陽性のため、陽性となった場合には、形態異常や発育の問題がないかをエコーで確認しつつ、遺伝学的確定検査を検討します。確定診断のためには、絨毛検査や羊水検査を行いますが、通常の染色体分析ではわからないため、「SNPマイクロアレイ解析」や「DNAメチル化テスト」を行います。欠失を調べるために「FISH」を行うこともありますが、FISH法では欠失の大きさはわからないため、複数のプローブでFISHを行うなどの工夫が必要です。

また、NIPTで15番トリソミーが陽性とでて、その後羊水検査で正常核型だった場合には、15番染色体の片親性ダイソミーが起きている可能性があるため、SNPマイクロアレイ検査でアンジェルマン症候群についても調べる意義が高まります。

症状

発達・神経症状が症状の主体となります。乳児期には症状は発揮止痢ないこともあり、その後座位や歩行などの発達が遅れる警告にあります。運動が苦手で、うごきがぎこちなかったり、歩行がスムーズにできないことがあります。大小様々なてんかん発作を認めます。また睡眠障害を合併しやすく、知的障害も認めます。

言葉を発してのコミュニケーションが難しく、継続的な心理社会的支援が重要です。

家族会が存在し、ピアサポートなども行われています。

参考

  • WEB予約予約・問い合わせはLINEから
  • 出産予定日・週数計算出産予定日・週数計算
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