クラインフェルター症候群とは
クラインフェルター症候群は、男性の性染色体異常によって起こる様々な症状の集まりです。
通常男性の性染色体はXとYの二つの染色体の組合せとなっていますが、何らかのきっかけで、この組み合わせがXXYやXXXYなどになることから発症するもので、男児の出生で500人に1人程度の確率で発生します。
クラインフェルター症候群は、ほとんどのケースで外見的な相違や発育の遅れなどが無く成長するまで気づかないことが多いのが特徴です。特に乳幼児のうちはほとんど症状がなく、第二次性徴期にいたって症状があらわれるケースが多く、中には成人しても症状があらわれず、普通に暮らしている人もいます。
ただし、精巣の発育が不足する傾向があり、男性不妊検査によって発見されるケースも多くなっています。
クラインフェルター症候群の
原因
生まれてくる子どもが男性か女性かは性染色体XとYによって決まります。XXであれば女性、XYであれば男性です。ところが、時になんらかの理由によって染色体の分離がうまくいかず、引きつがれる性染色体が「XXY」や「XXXY」などのようにX染色体が過剰になることから起こるのがクラインフェルター症候群です。その際、過剰になっているX染色体が多いほど症状は重篤になる傾向があります。
クラインフェルター症候群の原因となるX染色体の不分離は、50%は精子がつくられる過程(第一減数分裂)で起き、40%は卵子がつくられる過程で起きます。
遺伝子や染色体の病気というと、遺伝的な要素があるのではないかと考えてしまう方も多いと思うのですが、クラインフェルター症候群はあくまで受精卵が形成される際に偶発的に起こるとされています
クラインフェルター症候群と
ターナー症候群
クラインフェルター症候群は男性の性染色体数の変化ですが、女性の性染色体数の変化によって起こるのがターナー症候群です。
ターナー症候群では通常の女性のXXという性染色体のどちらかのX染色体の一部欠損や全体欠落などによって、二次性徴が訪れない、低身長などの様々な症状が起こります。
クラインフェルター症候群の
症状
クラインフェルター症候群では、乳幼児期から学齢期の前半までにそれと分かる症状が出ることはめったにありません。そのため、二次性徴期に入って、性徴の表れが遅いといった問題から受診して、初めて発見されることもあります。以下にクラインフェルター証拠群の主な症状を挙げておきます。
高身長
クラインフェルター症候群では、性染色体中に含まれる身長などの発育を司る遺伝子が一般より多くなるため、高身長となり、手足も長くなる可能性があります。
精巣が小さい
男性ホルモンであるテストステロンは主に男性の場合精巣で作られています。クラインフェルター症候群では、この精巣が十分に大きくならないことが多く、そのためテストステロンの分泌が低下することがあります。それによって思春期を迎えても二次性徴があらわれず、女性化の傾向があらわれることもあります。
ただし、精巣が未発達であっても、勃起や射精機能などには異常がなく、通常の性交渉が可能なことが多いとされています。
一方、クラインフェルター症候群であっても、中には通常通り精巣が発達し、生殖機能を有しているケースもあります。
体毛が薄く
女性乳房化がみられる
テストステロンの分泌が少ないため、男性ホルモンが司っている体毛は薄く、また体つきがなで肩になったり、やや胸に膨らみが認められる女性化乳房があらわれたりするケースがあります。
声変りが起こらない(不完全)
クラインフェルター症候群の場合、男性ホルモンが不足することから変声期が訪れなかったり、不完全であったりするケースがあります。
知的は保たれるが内向的
クラインフェルター症候群のある子どもの知能、普通である場合が多いのですが、言語認識や発語能力などが十分でなく、そのために学習障害が起こることもあります。また他の子どもとくらべると、受動的で内向的な性格が多いようです。
クラインフェルター症候群と
合併症
悪性腫瘍
悪性腫瘍はいわゆる「がん」です。がんが発症する原因には遺伝子の異常によるものが
も含まれており、クラインフェルター症候群では性染色体が過剰になっていることによるリスクの増加や、ホルモンバランスの異常によってがんが発症しやすいと考えられていますが、はっきりした原因は解明されていません。
クラインフェルター症候群で発症しやすいがんには次のようなものがあります。
乳がん
乳がんは女性だけのものではなく、稀ではありますが男性に発症することもあります。クラインフェルター症候群では遺伝子異常によるリスクだけではなく、米国の研究で女性科乳房症でも男性乳がんのリスクが一般より高いことが報告されています。
非ホジキン腫リンパ腫
血中に含まれる白血球の一種であるリンパ球ががん化して増殖してしまう血液のがんの一種で、いくつかのタイプに分かれます。リンパ球は免疫に関わるため免疫機能が低下します。
骨粗鬆症
古くなった骨は破骨細胞によって分解され、骨芽細胞によって新しい骨が補充され、常にリサイクルされています。この過程に異常が生じて骨密度が低下して骨の内部がすかすかで脆くなってしまった状態が骨粗鬆症です。
骨密度は、エストロゲンという女性ホルモンの一種と密接に関係しています。男性の場合エストロゲンは男性ホルモンであるテストステロンをもとに作られるのですが、クラインフェルター症候群ではテストステロンの分泌が低下しているためエストロゲンも不足しがちになり、骨粗しょう症が発症しやすくなります。
自己免疫疾患
自己免疫疾患とは、本来外敵から自己を守るための免疫システムが誤作動して自分の細胞を攻撃してしまうタイプの疾患で、いくつかの種類があります。クラインフェルター症候群では、原因ははっきりしませんがこの自己免疫疾患を発症しやすい傾向があります。
糖尿病
糖尿病は、血中に含まれ、細胞の活動のためのエネルギーとなるブドウ糖が何らかの原因でうまく利用できなくなり、血液中にブドウ糖が溢れてしまう疾患です。血糖値と男性ホルモンが大きく関連していることがわかっており、男性ホルモンの少ないクラインフェルター症候群では代謝異常が起こりやすいことから糖尿病の可能性も増加します。
クラインフェルター症候群は
いつ分かる?
クラインフェルター症候群は、外形上や健康上の異常があらわれることが少なく、二次性徴期を前に発見されるケースは1割程度と少なくなっています。思春期に入っても性徴があらわれないなど、症状があらわれて相談に訪れ発見されるケースが多くなっています。しかし、性徴も普通にあらわれ成人しても気づかずに生活している人もおり、男性不妊の検査ではじめて発見されることもあります。
最近では、NIPT(新型出生前診断)により、妊娠中に気づかれることも増えてきました。
なお、思春期以降では、血液検査によって染色体の異常を発見することができます。
クラインフェルター症候群の
治療
クラインフェルター症候群など、染色体の先天的な異常による疾患に関しては、今のところ根本的な治療法が発見されておらず、個々の症状に対する対症療法が行われています。なお、クラインフェルター症候群は国指定の難病ですが、難病医療費助成制度の対象とはなっていませんので、その他の医療費助成制度を検討することになります。
ホルモン補充療法
クラインフェルター症候群では、テストステロンの分泌が少ないことが多く、その不足分を補充するホルモン補充療法が行われます。二次性徴の遅れから、この疾患が発見された場合、その時点からホルモン補充療法を行い始め、成人後もホルモンの補充を続けることが望ましいとされています。思春期からホルモン補充を行うことによって、ヒゲや体毛も増え、骨格がしっかりし、筋肉量も増えて男性らしい身体になっていきます。また勃起不全なども改善する可能性があります。
一方、成人してからもホルモン補充療法を続けることによって、肥満を予防し、糖尿病などの生活習慣病の発症も抑えることができます。
ただし、ホルモン補充療法では無精子症を治すことはできませんので、別途男性不妊治療を受ける必要があります。
また、男性ホルモンの補充は比較的副作用の少ない治療法ですが、にきびやむくみなどの他、赤血球増加、前立腺疾患などの副作用も稀にありますので、全身の健康状態のチェックをしながら治療を継続することになります。
男性不妊治療
精巣の未発育やホルモン異常から、クラインフェルター症候群では、無精子症や精子数が少ないなど、男性不妊の症状があらわれるケースがあります。そのための治療法も研究が進んでおり、子どもをもつことも可能になってきています。
精液の中に精子が確認
できる場合(乏精子症)
乏精子症の場合、数こそ少ないものの、精液中に精子が確認できますので、その精子を採集し、顕微鏡下で卵子に直接採集した精子を注入する方法で人工授精を行います。
精液の中に精子が確認
できない場合(無精子症)
精液中に精子が確認できない無精子症の場合でも、精巣内に精子が確認できることがあります。具体的には精巣に針を刺す窄刺や小さく切開して精巣上体内にある体液を採集し、その中に精子が見つかれば顕微鏡下での人工授精を行います。クラインフェルター症候群による無精子症の方の4割程度はこの方法で精子が見つかるという報告があります。
療育
クラインフェルター症候群の子どもは、言語に関する認知や発語がやや苦手なで、コミュニケーションを取りにくいことがあります。そのため、言語分野での療育による専門プログラムなどが効果を発揮することがあります。
遺伝カウンセリング
染色体異常など、遺伝子に関わる疾患の検査や治療は、発症や治療のメカニズムなども専門的で難しく、またデリケートな部分を多く含んでいます。そのため、家族や患者さん本人がそれらを理解して今後の治療の進め方について意思決定ができるよう、医師や各種専門家による遺伝カウンセリングが大切な役割を果たします。
染色体異常による疾患や障害を家族がどのように理解し、患者さん本人であるお子さんに伝えるか、または伝えないかなど、様々な課題について、丁寧に、分かりやすく説明し、判断の目安とするのが遺伝カウンセリングの目的です。
クラインフェルター症候群と
NIPT
クラインフェルター症候群は、出生する男児の約500人に1人と、染色体異常の中では比較的多い疾患の一つです。しかし、出生前検査認証制度等運営委員会の規定では、出生前の遺伝子検査であるNIPT(新型出生前診断)の対象はダウン症候群(21トリソミー)、エドワーズ症候群(18トリソミー)、パトウ症候群(13トリソミー)のみとされています。しかし、クラインフェルター症候群も対象としたNIPTを提供する非認証施設もあります。
NIPTを受けて「陽性」となったことをきっかけに調べられている方もいらっしゃると思います。クラインフェルター症候群は、胎児超音波のみで確定や否定できるものではありません。確定検査として羊水検査を考える際、クラインフェルター症候群について詳しく知りたいと思うかもしれません。NIPTを受ける前後に、クラインフェルター症候群についてさらに知っておきたい場合には、当院の遺伝カウンセリングをご活用ください。