妊婦健診と胎児ドック、各種検査について
妊婦健診の目的には、生まれつきの疾患・症候群を評価することは含まれていません。もし、赤ちゃんの健康状態について知りたい場合には、出生前検査を考えます。
出生前検査には、エコー検査・血液検査・羊水検査など様々な方法があります。
全身の状態を知りたいか
生まれつきの疾患・症候群で多くの方が知っているものとして、ダウン症候群が挙がると思います。ダウン症候群は、染色体異常のなかで最も頻度が高い症候群ですが、生まれつきの疾患・症候群の約12%であり、ダウン症候群以外の疾患が多いことがわかります。
全体のなかで最も多い疾患は、心疾患であり、一般頻度が1%と言われます。
すべての疾患を知ることは難しいですが、頭・顔・首・胸・心臓・胃・腎臓・膀胱・手足など、すべての体のパーツで疾患があると考えてください。臓器の欠損(頭蓋骨がない、目がない、手足や指がない等)や心臓病などはイメージがつきやすいかもしれません。
生まれつきの疾患・症候群はたくさんありますが、ダウン症候群だけでなく、胎児の全身の健康状態について知りたい場合には、妊婦健診に加え、"胎児ドック"を受けることをおすすめします。
ダウン症等のトリソミーについて、よく知っていきたい場合には、胎児ドックのみでよいか、追加の検査を加えるかを考えます。
ダウン症候群など、トリソミーをどのくらい知りたいか
通常、染色体は、1~22番染色体のそれぞれが2本ずつペアになっています。これが3本になると、3本の染色体という意味でトリソミーと呼びます。21番染色体のトリソミーが、ダウン症候群に該当します。その他、生まれて来れるトリソミーには、18番染色体と13番染色体のトリソミーがあります。
ダウン症候群は認知度の高い症候群であるため、心配される方は多いです。また、ダウン症候群含むトリソミーの頻度は、母体年齢と関連します。ご自身の年齢が心配の要素である時には、トリソミーを対象とした出生前検査を検討しましょう。
トリソミーを対象とした検査は、いくつか種類があります。
エコー検査:NT計測、FTS(First Trimester Screening)、胎児ドック、コンバインドテスト
胎児にトリソミーがある場合、下記のようなエコー所見を認めます。項目によっては、妊娠11〜13週にしかみられないものもあります。これらがあるかどうかを、エコー検査でみることでトリソミーの可能性を調べます。
また、双子など多胎の場合、エコー検査ではそれぞれの胎児について評価できるという点が大きな利点です。また、バニシングツインを認めた方も、エコー検査はバニシングツインの影響を受けません。
※このテーブルは横にスクロール出来ます。
ダウン症候群 | 18トリソミー | 13トリソミー |
---|---|---|
NT肥厚(首のむくみ) その他・・・ など |
NT肥厚(首のむくみ) その他・・・ など |
NT肥厚(首のむくみ) その他・・・ など |
エコー検査で評価する項目数は、多いほど精度(*感度)は上がります。
NT計測
NT(Nuchal Translucency)とは、胎児の首のうしろのむくみのことです。トリソミーのある児は、首のうしろがむくみやすくなります。トリソミーの可能性を調べるために、NTを計測する検査です。検査時期は妊娠11週0日〜13週6日です。
NTを使用し、トリソミーの可能性を計算します。結果は、分数(1/●)で算出されます。
FTS
FTS(First Trimester Screening)とは、妊娠11週0日〜13週6日の期間にトリソミーに関連する所見を評価します。
主には、NT肥厚、鼻骨、三尖弁逆流、静脈管逆流を評価しますが、評価項目が定まっているわけではありません。そのため、施設ごとに検査項目が異なりますので、確認する必要があります。また、評価項目の数が多いほど、精度(*感度)は上がります。
NTの計測のみと同様に、トリソミーの可能性を分数(1/●)で算出されます。
胎児ドック
評価項目は、トリソミーに加え、心臓病などの形態異常も加わります。
FTSのように、妊娠13週6日までであればトリソミーの可能性を算出することも可能です。評価項目もFTSと同様に、施設ごとに異なりますので、事前に確認をするのが良いでしょう。
コンバインドテスト(オスカー検査)
コンバインドとは"組み合わせる"という意味であり、コンバインドテストはエコー検査と血液検査を組み合わせていく検査です。採血は、11週0日〜13週6日に行います。
①〜③のエコー検査に、血清マーカーの値(胎盤ホルモン値:free β hCG・PAPP-A)を加えます。胎児にトリソミーがある場合、血清マーカーは下記のようなパターンになることが示されてます。このようなパターンになるかどうかを調べます。
※このテーブルは横にスクロール出来ます。
トリソミーのない胎児 | ダウン症候群 | 18トリソミー | 13トリソミー | |
---|---|---|---|---|
free β hCG | → | ↑ | ↓↓ | ↓↓ |
PAPP-A | → | ↓ | ↓↓ | ↓↓ |
オスカー検査(OSCAR検査)ともいいますが、同一の施設でエコー検査も胎盤ホルモン値の解析も行う場合のみオスカー検査といいます。日本では、ほとんどの施設では胎盤ホルモン値の解析を行えないため、実際にはコンバインドテストに該当します。
*感度:トリソミーのある胎児にどの程度気がつけるか。
当院の胎児ドック・コンバインドテストPLUSの特徴
トリソミーの評価項目数が最大
当院では、トリソミーの可能性を算出する際に使用されるすべての項目を胎児ドックの範囲として評価します。項目数が多いほど、精度(*感度)が上がります。
評価項目
NT測定、鼻骨、心拍数、三尖弁逆流、静脈管の血流、脳の奇形(全前脳胞症)、臍帯ヘルニア、横隔膜ヘルニア、心奇形(心内膜床欠損),巨大膀
トリソミー以外も詳細に評価
トリソミーに関する評価項目は全体の一部であり、その他にも多数の項目を評価しています。これにより、可能性計算に使用されないトリソミーの関連所見や、トリソミー以外の形態異常についてもわかります。
コンバインドテストを当日結果返却
当院では、血清マーカーを解析する機器があり、採血の同日に解析ができます。結果は、採血から約1時間で返却可能です。
コンバインドテストPLUSをご希望の場合には、胎児ドック前に採血をすることで、胎児ドックが終わるころに胎盤ホルモン値の解析も終わり、あわせて結果をお伝えできます。
NIPT(新型出生前検査、非侵襲的出生前遺伝学的検査)
NIPTは、胎盤由来のDNA断片(染色体が断片化したもの)の量を、妊婦さんの血液を使って調べます。
妊娠中は、妊婦さんの血液中には、妊婦さん自身のDNA断片だけでなく、胎児由来のDNA断片は浮遊しています。このDNA断片を解析し、量を測定するのがNIPTです。
結果は確率ではなく、トリソミーを対象としたNIPTでは、DNA断片量が2本分に相当すれば陰性、3本分に相当すれば陽性の判定となります。
現在日本では、出生前検査認証委員会等運営委員会(リンク:https://jams-prenatal.jp/)が実施施設の認証を行っています。認証医療機関では、検査前後の遺伝カウンセリングや必要な場合の確定検査を実施するなど適切な支援体制が整備されています。現在、認証医療機関で実施するNIPTの対象は、ダウン症候群・18トリソミー・13トリソミーとなっています。これら3つのトリソミーについては検査精度が十分検証されています。
精度
ダウン症候群についての精度(*感度)は、99%程度です。検査会社で若干異なりますので、注意が必要です。
実施時期と結果返却までの日数
NIPTは妊娠10週前後から受検可能です。検査会社で解析を行うため、採血から1週間前後で結果が返却されます。
エコー検査(NT測定、FTS、胎児ドック、コンバインドテスト)とNIPTの違い
検査それぞれの特徴を知った上で、どの検査が適切か考えます。
※このテーブルは横にスクロール出来ます。
NIPT | NT・FTS | NT・FTS+コンバインドテスト | 胎児ドック | 胎児ドック+コンバインドテスト | |
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検査方法 | 血液検査 | エコー検査 | エコー検査+血液検査 | エコー検査 | エコー検査+血液検査 |
実施時期 | 妊娠10週頃~ | 妊娠11~13週 ※当院では詳細は形態評価を行うため、妊娠12‐13週としています |
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結果返却にかかる時間 | 1週間前後 | 当日 | 1週間前後 | 当日 | 1週間前後 |
対象疾患 | 21・18・13トリソミー | 21:18・13トリソミー+形態異常 | |||
精度(感度) | 99%程度 | ※項目数による | |||
結果の出方 | 陰性か陽性 | 確率 ※分数で算出されます |
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多胎 | 胎児それぞれの結果はできない | 胎児それぞれの評価ができる | |||
バニシングツインの影響 | 受ける | 受けない |