胎児の病気について
当院は、胎児ドックを専門に、生まれてくる前の赤ちゃんに何らかの病気や症候群がないかを調べています。現在では、出生前検査において、多くの生まれつき病気や症候群がわかるようになってきました。
なお、本ページでは、胎児に起こり得る病気をご紹介しますが、胎児に病気が疑われる・見つかった場合でも、当院ではお母さんをはじめ周囲の方々に向けたサポート体制を整えております。安心して検査と説明をお聞きに来院していただければと思います。
胎児の病気・障害
(妊婦健診、NIPT、
胎児ドックでわかる病気の違い)
表の見方 ◎:感度 80-100%、 ◯:感度50-80%、 △:感度10-50% 空欄:不明 or 感度10%以下
※このテーブルは横にスクロール出来ます。
中期 | 後期 | わかる病気の代表例 | |||||
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妊婦健診 | 精密 | 基本 | 精密 | 基本 | |||
染色体異常の 可能性評価 |
ダウン症 | ◎ | △ | ダウン症候群 | |||
13トリソミー | ◎ | △ | 13トリソミー | ||||
18トリソミー | ◎ | △ | 18トリソミー | ||||
頭部 | 頭蓋骨 | △ | ◎ | ◎ | ◎ | 無頭蓋症(無脳症)、脳瘤、頭蓋骨早期癒合症 | |
脳の左右差 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | Hemimegalencephaly(片側巨脳症)、脳腫瘍 | ||
脳梁 | ◎ | 脳梁欠損、脳梁低形成 | |||||
側脳室 | ◎ | ◎ | ◎ | 側脳室拡大、水頭症 | |||
第四脳室 | ◎ | ジュベール症候群 | |||||
小脳 | ◯ | ◎ | ◎ | 小脳低形成、小脳出血 | |||
小脳虫部 | ◎ | ◎ | Dandy-Walker Malformation(ダンディー・ウォーカー症候群)、小脳虫部低形成 | ||||
大槽 | ◎ | ◎ | ◎ | 開放性二分脊椎、Blake’s Pouch Cyst | |||
脳溝 | ◎ | 滑脳症、Hemimegalencephaly(片側巨脳症) | |||||
中大脳動脈 | ◎ | ◎ | 胎児貧血 | ||||
Wilis動脈輪 | ◯ | ◎ | ガレン動静脈瘤 | ||||
脳梁周囲動脈 | ◎ | ◯ | 脳梁欠損、脳梁低形成 | ||||
顔 | 両目 | ◯ | ◎ | 無眼球症、単眼症、眼窩間狭小、眼間開離 | |||
口唇 | ◯ | ◎ | ◎ | 口唇裂 | |||
上顎 | ◯ | ◎ | 口蓋裂 | ||||
下顎 | ◯ | ◎ | 無顎症、小顎症 | ||||
鼻 | ◎ | 鼻骨低形成、無鼻症、単鼻腔 | |||||
耳 | ◯ | ◎ | 耳介低位、耳介欠損 | ||||
頸部 | 頸部肥厚 | ◯ | ◎ | NT肥厚、ヒグローマ | |||
頸部腫瘤 | ◯ | ◯ | ◎ | 奇形腫、血管腫、脂肪腫 | |||
胸部 | 両肺 | ◯ | ◎ | CHAOS、BPS、CPAM | |||
肺肝境界 | ◯ | ◎ | 横隔膜ヘルニア、横隔膜弛緩症 | ||||
胸郭 | ◯ | ◎ | 胸郭低形成 | ||||
胸水 | ◯ | ◎ | 胎児胸水 | ||||
心臓/血管 | 心拍 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | 子宮内胎児死亡、胎児不整脈 |
向き | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ファロー四徴症 | ||
位置 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | 右側相同、左側相同、横隔膜ヘルニア、肺欠損、肺腫瘍 | ||
大きさ | ◎ | ◎ | 心拡大、心肥大 | ||||
左右心室 | ◎ | ◎ | ◎ | 単心室、左心低形成、右心低形成 | |||
大血管の交差 | ◎ | ◎ | 完全大血管転移 | ||||
大動脈 | ◎ | ◎ | ◎ | ◯ | 大動脈縮窄症、ファロー四徴症、大血管転移 | ||
肺動脈 | ◯ | ◎ | ◎ | ◯ | 肺動脈閉鎖症、大血管転移 | ||
動脈管 | ◯ | 動脈管早期閉鎖 | |||||
三尖弁 | ◎ | ◎ | △ | 三尖弁閉鎖、Ebstein奇形、三尖弁逆流 | |||
僧帽弁 | ◯ | ◎ | △ | 僧帽弁閉鎖、僧帽弁逆流 | |||
三尖弁・僧帽弁の位置 | ◯ | ◎ | △ | 房室中隔欠損症 | |||
大動脈弁 | ◯ | ◎ | △ | 大動脈弁狭窄、閉鎖、閉鎖不全 | |||
肺動脈弁 | ◯ | ◎ | △ | 肺動脈弁狭窄、閉鎖、閉鎖不全 | |||
肺静脈 | ◯ | ◎ | ◎ | 総肺静脈還流異常症 | |||
鎖骨下動脈 | ◎ | ◎ | 鎖骨下動脈起始異常 | ||||
3VV (主肺動脈・大動脈・上大静) |
◯ | ◎ | ◎ | ファロー四徴症、完全大血管転移 | |||
3VTV (動脈菅弓・大動脈弓) |
◯ | ◎ | ◎ | 完全大血管転移、大動脈離断、左心低形成症候群、大動脈縮窄複合症 | |||
心室中隔 | ◎ | ◎ | ◎ | 心室中隔欠損(VSD)、房室中隔欠損症 | |||
心房中隔 | ◎ | ◎ | 心房中隔欠損(ASD)、卵円厚閉鎖、房室中隔欠損症 | ||||
腹部 | 胃 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | 左側相同、右側相同、食道閉鎖 | |
腹壁 | ◎ | ◎ | ◎ | 腹壁破裂、臍帯ヘルニア | |||
胆嚢 | ◯ | ◎ | ◎ | ◎ | 胆道閉鎖、胆道拡張症 | ||
臍帯静脈 | ◎ | ◎ | 右臍帯静脈遺残 | ||||
静脈管 | ◎ | ◎ | 静脈管欠損、静脈管逆流 | ||||
膀胱 | ◎ | ◎ | 巨大膀胱、腎無形成、膀胱外反 | ||||
副腎 | ◎ | 副腎腫瘍、副腎出血 | |||||
腎臓 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | 腎無形成、馬蹄腎、水腎症 | ||
尿管 | ◎ | ◎ | 尿管膀胱移行部狭窄 | ||||
腹水 | ◎ | ◎ | ◎ | 胎児腹水、胎児貧血 | |||
脊椎 | 頚椎 | ◯ | ◯ | ◎ | Hemivertebra、二分脊椎、脊髄髄膜瘤、髄膜瘤、脂肪腫、奇形腫、側弯 | ||
胸椎 | ◯ | ◯ | ◎ | ||||
腰椎 | ◯ | ◯ | ◎ | ||||
仙骨 | ◯ | ◯ | ◎ | ||||
背部表面 | ◯ | ◯ | ◎ | ||||
四肢 | 上腕 | ◎ | ◎ | ◎ | 欠損、内反、合指、多指、変形、骨折、拘縮 | ||
前腕(橈骨・尺骨) | ◎ | ◎ | |||||
手掌 | ◎ | ◎ | |||||
手指 | ◎ | ◎ | |||||
大腿 | ◎ | ◎ | ◎ | ||||
脛(脛骨・腓骨) | ◎ | ◎ | |||||
足/足首 | ◯ | ◎ | |||||
外性器 | 外性器 | △ | ◎ | 外性器の異常 | |||
臍帯 | 臍帯 | ◎ | ◎ | 臍帯嚢胞、尿膜管遺残、臍帯過捻転、臍帯過少捻転、前置血管 | |||
臍帯動脈 | ◎ | ◎ | 単一臍帯動脈 | ||||
羊水 | 量 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | 羊水過少、羊水過多 | |
羊膜 | 羊膜 | ◎ | ◎ | Body-stalk anomaly、羊膜索症候群 | |||
胎盤 | 位置 | ◯ | ◎ | ◎ | 前置胎盤、低置胎盤、臍帯付着部異常、 | ||
性状 | ◎ | ◎ | 胎盤腫瘍、癒着胎盤 | ||||
その他 | ◎ | ◎ | 三倍体 | ||||
子宮動脈 | 子宮動脈 | ◎ | ◎ | ◎ | 妊娠高血圧腎症、子宮内胎児発育不全の予測 |
頭部の病気
無頭蓋症(無脳症)
妊娠初期に、胎児には脳や脊髄のもととなる神経管ができます。通常は成長とともに神経管は閉鎖されるのですが、何らかの障害が起こって閉鎖されない場合、脳や頭部の組織がうまく形成されず起こる疾患です。妊娠初期(妊娠12週以降)のFMF胎児ドックで100%見つけることができます。
脳瘤
頭蓋の一部が開いたまま閉鎖されず、脳の内容がそこから飛び出した状態です。多くの場合修復可能です。 FMF胎児ドックで見つけることができますが、突出の程度や生後の見通しを立てるためには、胎児MRI検査を行なったり、継続して発育を観察する必要があります。
頭瘤(とうりゅう)
頭蓋の閉鎖不全から瘤状のものが頭蓋から突出していますが、内容物は脳などの神経組織以外のものです。
頭蓋骨早期癒合症
(とうがいこつそうきゆごうしょう)
赤ちゃんの頭蓋は脳の成長に合わせて変形できるように、7つの部分に分かれた状態になっています。この隙間が脳の成長より早く閉じて(癒合)しまう疾患が頭蓋骨早期癒合症です。脳の成長にあわせて頭蓋が拡がらないため、頭の形がいびつになったり、脳が圧迫されて障害が起こったりします。
Hemimegalencephaly
(片側巨脳症)
先天的な形成異常から、脳の片側半球が巨大化するのが片側巨脳症です。発症原因は不明ですが、今のところ遺伝的要素は少ないと考えられています。主な症状は難治性のてんかん、不全片麻痺、精神運動発達の遅れの3つが挙げられています。特に難治性のてんかんは薬でコントロールできないことが多いのですが、早いうちに巨大化した脳の分離手術を行うことで、発作を治めることができれば、その後の発達遅滞なども防ぐことが可能と考えられています。
なお片側巨脳症は国の指定難病となっており、治療費補助の対象です。
脳腫瘍
胎児期、または新生児期に脳腫瘍を発症することがあります。家族性脳腫瘍や遺伝性脳腫瘍など、さまざまなタイプがあり、悪性のものも良性のものもあります。腫瘍のタイプ、程度、影響などをしっかり鑑別して治療方針を決定します。
脳梁欠損(のうりょうけっそん)
大脳は大きく右脳と左脳の二つの半球に分かれていて、その間を繋いでいる神経の束を脳梁と言います。この脳梁が生まれつき全体に、あるいは部分的に欠けているのが脳梁欠損です。脳梁欠損があっても何ら障害のない場合もありますが、中には染色体異常から発症すると考えられる場合もあり、その場合は他合併症として痙攣や網脈絡膜異常といった症状を起こすケースもあります。こうしたケースになると、出生後に脳手術を行うことも検討対象となります。
側脳室拡大
側脳室とは、左右の脳の内部に対に存在する空洞のことで、内部は脳脊髄液で満たされており、脳脊髄液は循環しています。時にこの側脳室が一般より大きいことがあり、これを側脳室拡大と呼んでいます。原因は子宮内感染や染色体異常などいくつかが考えられます。
水頭症
水頭症は、脳室内の脳脊髄液の環流が妨げられた状態になり、結果として脳室が拡大し、周辺の大脳を圧迫することで起こります。脳脊髄液は通常中脳水道やモンロー孔といわれる部分を通って行われますが、この部分の狭窄などが原因となることが多いようです。脳や中枢神経系のなんらかの異常が原因となっていることもありますので、注意が必要です。
ジュベール症候群
人の身体の上皮細胞には繊毛(線毛)と呼ばれる突起があって、細胞の周りの液体を流す作用をしています。この繊毛を司る遺伝子には多くの種類がありますが、そのうちどれかに異常があって起こるのが「ジュベール症候群」です。小脳の虫部の欠損と脳幹の切れ込みによって、脳が人の臼歯のような形になっていることが特徴で、発達の遅れ、筋緊張の低下、眼球の運動異常などの症状をあらわします。
なおジュベール症候群は国の指定難病になっていますので、医療費助成を受けることができます。
小脳低形成
生まれつき小脳が小さい状態が小脳低形成です。基本的には染色体の18番目の対がトリソミーになっている場合によく見られる疾患です。主な症状としては、筋緊張低下、運動能力発達の遅延、眼球運動異常や斜視などが挙げられます。
Dandy-Walker Malformation
(ダンディー・ウォーカー症候群)
ダンディー・ウォーカー症候群は、胎生期に赤ちゃんの脳が発達異常を起こし、脳内に閉鎖的な空間ができることと、小脳虫部の欠損が認められ、脳内の閉鎖的空間に脳骨髄液がたまることで脳圧の上昇や水頭症による全身症状を起こす疾患で、精神運動発達遅延を伴うことが多くあります。脳の閉鎖的空間から腹腔を繋ぐバイパスを形成し、脳圧を下げる治療を行います。
滑脳症
脳には通常多くのしわが形成されます。このしわの溝の部分を脳溝と言い、隆起した部分を脳回と言います。滑脳症は狭い意味では、この脳のしわが形成されないことですが、その他にも灰白質の異常や脳回形成の異常など様々な状態があります。症状は脳の皮質異常の重症度によって異なりますが、多くの場合てんかん、知的障害、脳性麻痺などが生じ、その他には顔貌異常などが起こることもあります。
ガレン大静脈瘤
ガレン大静脈瘤は、脳内の動脈と静脈が直接繋がってしまっている状態で、その先の毛細血管から脳細胞への酸素や栄養の供給が不足し、様々な脳障害や、新生児期の心不全、乳児期の頭囲拡大などの症状を起こします。治療は血管内で行うことが多いのですが、胎児の状態によって、出生前に発見されたからといって、新生児期に必ずしも治療が必要というわけではありません。
顔の病気
口唇裂・顎裂・口蓋裂
胎児の間に、唇の部分に発達異常が起こり、うまく左右の唇が鼻の下で繋がらず裂けたまま生まれてくるのが口唇裂です。歯ぐきが繋がっていない状態の顎裂、口の中の天井の部分である硬口蓋と軟口蓋が裂けている口蓋裂も起こり、これらが複数同時にあらわれるケースもあります。原因は染色体異常、遺伝的要素などもありますが、何らかのきっかけでたまたま発症することもあり様々です。他の障害などを合併する場合は、染色体検査を提案することもあります。
下顎症、無顎症
下顎骨が小さい場合を下顎症(小顎症)、まったく形成されない場合を無顎症といい、先天性の下顎部の異常です。発症は片側だけの場合と両側にあらわれる場合があります。呼吸のためのスペースが狭くなることで、呼吸困難や睡眠時無呼吸などを起こすこともあります。また、授乳や食事がうまくいかないこともあります。治療は病状と成長具合に応じて外科的治療を行うことが一般的です。
胸部の病気
CPAM(先天性肺気道奇形)
CPAM(シーパム)は肺に袋状の良性腫瘍ができる疾患で、腫瘍の大きさは非常に小さいものから大きいものまで様々です。腫瘍の大きさによって症状も異なり、大きなものは心臓や肺の正常な部分を圧迫することから、生まれてすぐに人工呼吸器が必要になることが多く、また緊急手術となることもあります。そのため、胎児ドックでCPAMが見つかっている場合は、対応施設のある高度医療機関で出産することをお勧めしています。一方、小さなものはほとんど症状もないため治療の必要はありません。
横隔膜ヘルニア
横隔膜ヘルニアは、横隔膜に孔が開いていて胃や腸管、肝臓などの腹腔内臓器が胸郭内に飛び出してしまい、肺や心臓を圧迫する疾患です。胎児期にこの疾患がある先天性横隔膜ヘルニアでは、肺が圧迫によって発育不全になることが多いのですが、胎児ドックによってある程度重症度が予測できます。重症の場合は出生後すぐに呼吸管理が必要になるため、そのための施設のある高度医療機関で出産することになります。胎児治療の適応があるため、妊娠初期に見つけて、染色体異常など合併症の有無を精査することが重要です。
横隔膜弛緩症
横隔膜の張力が非常に緩い状態です。そのため、腹腔内の臓器が胸郭内に入り込んでいるように見えることもあります。しかし、実際に孔が開いていて臓器が入り込んでいるわけではありません。弛緩は片方、または双方の横隔膜で起こり、そのため横隔膜が動かず呼吸がしにくいという症状が出ます。長期間人工呼吸器によって呼吸を自然にする治療や外科的手術による治療法などがあります。
心臓/血管の病気
胎児不整脈
不整脈は、単に脈拍が乱れるだけではなく(期外収縮や細動など)、脈が速くなりすぎる頻脈、遅くなりすぎる徐脈など様々な種類があります。胎児でも不整脈を起こすことがあり、特に心拍数が180回/分以上が続く場合、胎児頻脈性不整脈を起こしている可能性があり、この状態が続くことで胎児が水腫を起こして腹水や胸水がたまってしまうことや、全身に浮腫を起こしてしまうこともあります。その場合は母体に不整脈を抑える薬を投与する治療を行います。
大動脈縮窄症
心臓から出た大動脈の一部が極端に狭窄することで、下半身への血流障害が生じています。狭窄の度合いが強い場合は出生後すぐにショック症状を起こしやすくなります。妊娠後期には、生理的狭窄といって正常でも細く見えることがあるため、診断しにくくなります。妊娠初期〜中期に心臓をよく観察することで診断することができます。
ファロー四徴症
酸素供給不足によるチアノーゼの症状を伴う先天性の心疾患として代表的なものの一つです。左右の心室を隔てる心室中隔の欠損、大動脈が左右の心室にまたがる大動脈騎乗、肺動脈弁と肺動脈の出口である漏斗部の狭窄、右心室の肥大という4つの徴候があらわれることによって四徴とよばれています。ダウン症候群や、22q11.2欠失症候群などが背景にあったり、その他の先天性異常と合併しているケースもあります。国指定の難病となっており、医療費助成の対象です。
妊娠初期の胎児ドックで大半が見つかりますが、中期ドックで見つかることもあります。心臓の部屋の大きさなど大まかな形は正常であるため、妊婦健診の通常超音波では見つかりにくい疾患とされています。
大血管転位症
心臓では、通常は左室から酸素濃度の濃い動脈血が大動脈へ、右室から酸素濃度の低い静脈血が肺動脈へと送りだされています。これが先天的に逆転し、左室から肺動脈へ、右室から大動脈へと血流が生じているのが大血管転移です。心室中隔に欠損がないタイプを完全大血管転位症と言い、生後に大動脈と肺動脈を転換する手術を行うこともありますが、予後は良く、通常の日常生活を送ることが可能なケースが多くなっています。
三尖弁閉鎖症
心臓の右心房と右心室を繋ぐ部分にある弁を三尖弁と言います。この三尖弁が先天的に閉鎖している状態です。三尖弁が閉鎖していると右心房に入ってきた血液が右心室に入らないため、右心室が育たず「右心低形成」になることがあります。右心低形成になった場合には、生後に心臓手術が必要となります。
心室中隔に穴があるなどにより右心室が育った場合でも、生後にはチアノーゼなどの症状を引き起こします。治療としては薬物治療やバルーンカテーテルを行います。国の指定難病になっています。
Ebstein(エプスタイン)奇形
心臓の右心房と右心室を繋ぐ三尖弁が先天的に通常の位置より右心室内にずれている心疾患です。そのため、右心室から右心房への逆流を生じることが主な症状です。ずれの程度や逆流の程度によって症状は様々ですが、胎児期に亡くなってしまうこともあります。胎児期に三尖弁逆流を認めた時には、Ebstein奇形がないかどうかの判断と、重症度評価を行います。国によって難病指定されており医療費補助が受けられる疾患です。
心室中隔欠損(VSD)
左右の心室を隔てる心室中隔という壁に、先天的に孔が開いているもので、先天性心疾患のなかでも数が多いものです。孔の大きさや起こる場所によって症状が異なります。初期の胎児ドックで心室中隔欠損が発見されても、その後自然に塞がっていくこともあり、治療が不要になるケースもあります。染色体異常と合併するケースもあります。通常の妊婦健診で心拍を確認する際に、ふと発見されることもあり、その場合には「ダウン症の可能性が上がる」と言われて不安になる場合があります。「胎児ドック+胎児心エコー」にて、心室中隔のどの部分にどの程度の穴があるのかを確認したり、その他に形態異常がないかを見ることで、染色体異常と関連がありそうなのか、なさそうなのか、をある程度判断することもできます。
腹部の病気
食道閉鎖
食道閉鎖は、胎児が成長する際、食道がうまく形成されず途中で途切れてしまっている状態の先天性消化管異常です。生後に手術を行うことができます。
食道と気道が分化する際に何らかの異常がおこって途切れてしまうのではないかと考えられています。気管と独立しているか接合しているかなどでいくつかの型に分かれます。気管との交通のない食道閉鎖の場合、胃袋に羊水が入らないため、通常の妊婦健診のなかで「胃がみえない」として発見されることがあります。このタイプの食道閉鎖は、食道閉鎖全体の中では約10%にとどまります。もっとも多いのはC型で、気管を通じて胃に羊水が入り込むため、通常の妊婦健診では食道閉鎖とは疑われずに「羊水過多」とされることがあります。後期胎児ドックでは食道そのものを観察することで、タイプCの食道閉鎖の発見を目指しています。(実際には100%診断することはまだ困難です)
腹壁破裂
胎児の臍の緒の右側はやや腸壁が弱い部分です。その部分に生まれつき穴が空いていて、その部分から腸壁の外に小腸や大腸がほとんどはみ出してしまっている状態です。出生後に外科的手術によって、はみ出した腸を腸壁内部に戻します。手術後の予後は概ね良好です。染色体異常と関連することは稀ですが、Body stalk anomalyなどのその他形態異常を認めることがあります。妊婦健診では、染色体異常との「臍帯ヘルニア」と区別が難しいことがあり、染色体異常のリスクが高いと説明されることがあります。
臍帯ヘルニア
胃や腸といった腹腔内の臓器が臍の緒の中にはみ出している状態です。「でべそ」をイメージするとわかりやすいですが、その程度が大きいと腸管だけでなく肝臓や心臓が臍帯内にはみ出します。妊娠初期には、全てのヒトが臍帯ヘルニアの状態であり、妊娠10-11週頃には臓器が腹腔内に収まります。妊娠10週頃に臍帯ヘルニアを指摘されることがありますが、腸管のみのヘルニアであれば、正常の発達段階を観察しているだけのことがほとんどです。妊娠11週を過ぎても臍帯ヘルニアがある場合や、いずれかの週数で肝臓を含む大きな臍帯ヘルニアを認める場合には、精査が必要です。
巨大膀胱
妊娠初期の膀胱が通常よりもやや大きい時、染色体異常との関連が強く示唆されます。妊娠初期の膀胱が15mm以上と、かなり大きい時、染色体異常ではなく膀胱の出口の狭窄や閉鎖(下部尿路閉鎖)を考えます。全く排尿できない時には、のちに羊水過少となり、胎児の肺の発育に影響がでるため、精査と経過観察が必要です。
腎無形成
対になっている腎臓の片側、または両側が形成されない先天性異常で、両側無形成の場合は重篤です。片側無形成の場合、無症状のことも多く、胎児ドックや乳児健診などで発見されない場合、成人するまで発見されないこともあります。
重複腎盂尿管
通常、腎盂と尿管は左右に1つずつありますが、それが2つ以上ある場合があります。尿管の重複の程度によって、不完全型と完全型に分かれます。無症状のことも多いですが、尿管膀胱移行部狭窄を起こしたり、強い尿管狭窄により腎機能に影響がでることもあり、経過観察が必要です。妊娠中期に腎臓や腎動脈を左右それぞれ観察することで気づくことができます。
水腎症
尿路が狭くなったり詰まったりして、尿の出が悪くなり腎盂に尿が溜まって腫れてしまう疾患です。胎児ドックでエコー時に発見されることもあります。対で存在する腎臓のうちどちらか片側に起こることが多く、その場合反対側は正常であるため、自覚症状のないまま成人することもあります。腎臓から尿管に流れるところの狭窄を「腎盂尿管移行部狭窄」といい、尿管から膀胱へ流れるところの狭窄を「尿管膀胱移行部狭窄」と言います。水腎症を認めた時には、どの部分の狭窄が疑われるのかを確認します。妊娠中に水腎症を認めても、その約90%は生後に自然軽快するため、軽症であれば心配しすぎる必要はありません。非常に重度の場合には、腎機能が廃絶してしまうこともあります。
水腎症は、ダウン症候群の妊娠中期の特徴でもあるため、妊娠初期にダウン症検査を行っていない場合、胎児ドックやNIPT、羊水検査などでダウン症についての精査を提案することがあります。
脊椎の病気
二分脊椎
妊娠初期に作られる神経管は、通常妊娠第4週ぐらいになると閉鎖し、脳や脊髄が形作られていきます。ところが何らかの理由で閉鎖が起こらないと、脊椎がうまく形成されず、脊髄が脊柱管の外に飛び出した状態で様々な神経障害を起こす、先天性疾患です。
髄液が漏れる「開放性」と、皮膚が閉じている「閉鎖性」とに分類されます。より重篤なのは開放性で、診断されないまま出産に至ると、髄液に菌がはいり髄膜炎になったり、飛び出した脊髄が障害されることがあります。開放性二分脊椎の場合、髄液が漏出することで、延髄や小脳が脊柱管方向に引き下がり、水頭症を起こすこともあります。開放性二分脊椎の場合、妊娠中に麻痺が進行するということもあり、胎児治療の適応となる可能性があります。
また、無頭蓋症や二分脊椎は、葉酸不足がリスク因子として知られています。欧米では、日常生活を送っていれば必要量の葉酸を摂取できるように、必須栄養素として食品添加が行われていますが、日本では行われていないため、妊娠3ヶ月前からの葉酸サプリの内服が啓発されています。葉酸の内服の必要性を知らなかった場合や、思いがけぬ妊娠の場合などには葉酸を安心量摂取できていないこともあります。葉酸を摂っていなかった場合でも、ほとんどの場合は正常に発育するため過剰に心配する必要はありませんが、無頭蓋症も開放性二分脊椎症も、ほぼ100%妊娠初期の胎児ドックで見つけられる疾患のため、不安があれば妊娠初期にほぼ解消することができます。
側弯
脊柱は通常天地方向にほぼ垂直になっていますが、側弯症は左右どちらかに曲がっている状態で、時に軸方向に捻れが加わっていることもあります。この状態が胎児期からあらわれているケースが先天性側弯症で、小児期に何らかの理由で後天的にあらわれるケースもあります。側弯症を認めた場合には、その他にも合併奇形がないかを確認します。
四肢の病気
タナトフォリック骨異形成症
四肢のほか頭蓋骨、肋骨などに異常な変型が認められる、骨の先天性異常です。特徴としては、上腕骨や大腿骨が極端に短く、肋骨が未発達のため胸郭の狭小があります。また頭蓋骨も巨大化する傾向があります。骨の成長に関係する遺伝子の変異が原因となっていることがわかっています。短躯の他、胸郭の狭小による呼吸困難など、重度の障害が多く、国の指定難病となっています。
骨形成不全症
先天的に骨がもろくなっている疾患で、I型コラーゲン遺伝子という遺伝子の変異によって起こるとされています。生まれてすぐに死亡してしまうようなケースから、自覚症状がなく成人してたまたま発見されるケースまで様々ですが、一般的にはすぐに骨折してしまう他、骨格に様々な変型が起こります。国の指定難病に含まれています。
低フォスファターゼ症
先天的にアルカリフォスファターゼ(ALP)の産生が少なくなっているため、骨が石灰化しにくくなる疾患で、くる病のような症状が起こります。軽症、中等症、重症と分けられ、軽症の場合ほとんど自覚症状がなく成人することもありますが、中等症では骨折の多発や骨格の変型が見られます。重症の場合は出生後すぐに亡くなってしまうこともあります。中等症では、近年有効な治療法も発見されています。国の難病に指定されています。
関節拘縮症
全身の様々な関節がなんらかの原因で先天的に非常に可動域が狭くなってしまっている状態が関節拘縮症で、多発性関節拘縮症と呼ばれることもあります。お腹のなかで羊水が過剰に少ない場合や、子宮が狭かったり変型していたりして胎児が十分に身体を動かすことができないようなケースで拘縮が起きるケースや、18トリソミーによる染色体異常で起こるケースなどがあります。原因をしっかりと特定して、その後の治療を考えていきます。
羊膜索症候群
赤ちゃんを包んでいる羊膜が破れてしまい、その破片によって赤ちゃんが外傷的に傷つけられ、その部分が発育不全を起こしたり障害を起こしたりする疾患です。遺伝子異常といった内的要因ではなく、羊膜によって起こる外的な障害であるため、一般的に内臓などに障害は起こりません。例えば、羊膜が指に絡まっている場合、赤ちゃんの成長に伴って羊膜による絞扼の影響が強くなるため、徐々に血流障害が悪化し、羊膜による絞扼部分より末梢側が脱落してしまうことがあります。
内反足
生まれつき足の先が内側に曲がった状態になっている疾患です。多くの場合、生後の理学療法で改善します。羊水が少ないことで足首が屈曲して育つことでなる場合もあれば、靭帯の異常などが原因で、妊娠初期より認めることもあります。染色体異常がある児に認めることがあるため、NIPT陽性の場合などには特に注意深く内反足の有無を確認します。
胎盤の病気
前置胎盤
前置胎盤は産道の入口に覆い被さるように胎盤ができる状態です。ここまで解説したような、胎児の異常ではないのですが、前置胎盤の状態では、産道に胎児が入ることができないため、帝王切開での出産となります。妊娠初期は子宮が小さいこともあり、胎盤が産道に覆い被さっていることはよくあります。妊娠中期頃までの前置胎盤は、子宮の成長に伴い改善することもあるので心配しすぎなくても良いでしょう。ただし、妊娠初期に前置胎盤だったときには、性器出血を避けるため性交渉を控えるなどの工夫ができるため知っておくことは重要です。
胎児に病気が見つかったら…
当院では、生まれてくる赤ちゃんに病気や障害があっても、暮らしにくくならないように、赤ちゃんが生まれてくる前からサポートする体制を整えております。赤ちゃんに病気や障害が分かると、パニックになり、その後の暮しまで想像できず、出産をあきらめてしまう方もいらっしゃいます。そこで、当院では、まず必要な情報を得て冷静に向き合える環境づくりを整える、ご自身の価値観と照らし合わせながらよりしっくりくる選択のお手伝いをさせていただいております。
医学の進歩により生まれつきの病気は生まれる前の段階で分かることも増えてきました。しかし、分かることでつらいことも多くあるのが現状です。生まれる前に病気を知ることで不安になるかと思いますが、そのときにお母さんや周囲の方々を支える仕組み、胎児医療を通してお母さんやお父さんの精神面もサポートしていきます。
生まれてくる赤ちゃん、胎児に病気を指摘されると、頭が真っ暗になるかもしれません。そのようなときには、ぜひ胎児医療を専門とし、胎児のお母さん・お父さんと周囲の方々まで幅広いサポート体制の整った当院までご相談ください。